東京地方裁判所 昭和57年(ヨ)2016号 判決 1984年6月14日
債権者 土岐龍雄
右代理人弁護士 梶原正雄
同 江口英彦
債務者 学校法人 大東文化学園
右代表者理事長 鈴木則幸
右代理人弁護士 柴田政雄
同 鹿児嶋康雄
同 浅田千秋
主文
一 債権者の本件各申請はいずれもこれを却下する。
二 申請費用は債権者の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 申請の趣旨
(主位的申請)
債権者が債務者学校法人大東文化学園の評議員及び理事の各地位にあることを仮に定める。
(予備的申請)
債権者が債務者学校法人大東文化学園の評議員及び理事の各職務を行う地位にあることを仮に定める。
二 申請の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 申請の理由
(被保全権利)
1 債務者学校法人大東文化学園(以下「債務者学園」という。)は学校教育法、私立学校法に基づく学校法人であり、大東文化大学その他の学校を設置、経営しているものである。
2 債務者学園の寄附行為によれば、評議員及び理事の構成の一部として、債務者学園ないしその前身である法人の設置した学校を卒業した者で年齢二五年以上のもののうちから理事会において選任された者八人以上九人以内が評議員になること(一五条一項三号)、右評議員のうちから評議員会において選任された者三人以上四人以内が理事となること(九条一項三号)がそれぞれ定められているところ、債権者は、昭和五二年五月三〇日、債務者学園の理事会において、前記条項所定の評議員に選任され、さらに評議員会において、同じく前記条項所定の理事に選任された。その後昭和五四年六月三〇日には評議員及び理事に各再任された。
3 しかるに債務者学園は、昭和五七年二月二三日開催の評議員会で債権者を理事から解任したとして同日付書留内容証明郵便でその旨を債権者に通知し、さらに同年三月一日開催の理事会で債権者を評議員から解任したとして同月二日付書留内容証明郵便でその旨を債権者に通知し、以後債務者学園は債権者を理事及び評議員として扱わない。
4 しかしながら、右解任決議はいずれも次の理由により無効である。
(一) 債務者学園所定の寄附行為には、理事及び評議員の解任については任期途中で解任できるとの明白な規定はないのであるから、任期途中での解任決議は予定せずできないはずであり、右規定に違反してなした前記の各解任決議は寄附行為に違反し無効である。
(二) 仮に解任できるとしても、何らの理由もなく解任できるわけではなく、債務者学園と理事及び評議員との間に信頼関係を破壊するに足るような相当な事由のある場合に限ってのみ解任ができるというべきである。しかるにそのような事由は全く存しない。かえって債権者としては、申請外池田末利を大東文化大学の学長侯補に推薦するにつき、その方法において、教授会の過ちを指摘し、監督官庁及び裁判所にその是正を求めてきたにすぎない。
5 したがって、債権者は、現に債務者学園の評議員及び理事の地位にあるというべきであるし、仮に昭和五七年六月二九日の任期終了によりその地位を失ったとしても、後述のとおり、後任の評議員及び理事が適法に選任されるまで評議員及び理事の職務を行う地位にある。
(保全の必要性)
6 債務者学園においては、理事をもって組織する理事会が学校法人の業務を決定し、評議員をもって組織する評議員会が学校法人の業務の重要事項について学校法人の代表者たる理事長の諮問を受けるのであり、いずれもその権限は極めて重要であるところ、債務者学園は、現在長期事業計画の策定、学生定員増計画の策定、新学部の設置等理事会及び評議員会が右の重大な業務を審議決定すべき時期に来ているから、理事、評議員の果すべき役割は平素に増して極めて重大な時期にあり、さらに、債権者は、別件の職務執行停止代行者選任仮処分申請事件において、池田末利学長の職務執行停止を求めているのであるが、債務者学園は、右事件で、債権者が理事、評議員の解任によって、右仮処分の申請適格を失った旨主張しているから、この点でも本件地位保全の仮処分の必要性は大きいものである。
よって申請の趣旨記載のとおりの裁判を求める。
二 申請の理由に対する認否及び債務者の主張
1 申請の理由1ないし3の各事実は認める。同4(一)、(二)の主張については、債務者学園と理事ないし評議員との関係は、法律上準委任の関係にあるがら何時にても委任を解消できる関係にある。しかるところ、債務者学園は、昭和五七年三月一日、理事会において信頼関係喪失を理由として、債権者を評議員から解任したのであって、何ら決議方法に瑕疵はない。しかもこれにより債権者は、寄附行為九条二項の「評議員の職を退いたときは理事の職を失うものとする。」に該当することとなったから、当然、理事の職をも失った。同5は争う。同6のうち、理事、評議員の権限がその主張のとおりであること、債権者が別件の職務執行停止仮処分申請事件において、池田末利学長の職務執行停止を求めていること、右事件で債務者は、債権者が申請適格を失った旨主張していることは認めるが、保全の必要性については争う。
2 仮に解任決議が無効としても、債権者の評議員及び理事としての任期は三年であり(寄附行為一六条一項)、したがって昭和五七年六月二九日の経過により、評議員及び理事としての任期はいずれも満了した。
なお、同月二四日及び三〇日新たに後任の理事一八名、評議員四〇名(いずれも債権者と同じく卒業生中から選出された者を含む。)が選任され、同月三〇日それぞれ就任した。
3 なお、債務者学園の学長である池田末利は、昭和五八年三月三一日をもって停年による任期満了のため学長を退任することになっている。このことにより、債務者の理事会では同月九日後任学長として清原道壽を選任した。したがって、債権者の主張する保全の必要性のうち、池田末利学長の職務執行停止を求めている点に関する主張は理由がない。
三 債務者の主張に対する認否及び債権者の反論
1 債務者の1の主張のうち、昭和五七年三月一日の理事会において、債権者を評議員から解任する決議があったことは認めるが、その効力については争う。
債務者の2の主張のうち、債権者が昭和五七年六月二九日の経過をもって理事、評議員の任期を満了したこと、同月二四日新たに債務者主張のように理事一八名、評議員四〇名が選任されたことは認める。
しかしながら、右選任については、その基礎となった評議員会及び理事会の決議につき、(1)債権者に対し、理事会、評議員会の招集通知をせず、かつ議決権も行使させなかった、(2)不適法な学長選任行為によって理事、評議員となった池田末利が理事会、評議員会において議決権を行使した、という手続違背があり、したがって、本件改選決議は無効であり、後任の理事、評議員はいずれも有効な理事、評議員とはいえないから、債権者は、後任が有効に選任されるまで寄附行為一二条三項「役員はその任期満了の後でも後任者が選任されるまではなおその職務を行う。」旨の規定に基づき、依然として右職務を行う地位にある。
2 債務者の3の主張のうち、債務者の学長である池田末利が昭和五八年三月三一日をもって停年による任期満了のため学長を退任することとなっていること及び清原道壽が後任の学長に選任されたことは認めるが、保全の必要性に関する主張は争う。
四 債権者の反論に対する認否と債務者の再反論
債務者学園が本件改選決議のための理事会及び評議員会に債権者に招集通知をしなかったことは認める。
しかしながら、仮に債権者が本件改選決議に参加していたとしても、債権者や池田末利の右における議決権行使の有無が右決議の結果に影響を及ぼすような事情は全く存しなかった。
右後任者選出の経緯は次のとおりである。すなわち、
1 昭和五七年六月二四日、評議員三九名出席(委任状も含む。)により評議員会が開催され、同評議員会において寄附行為九条一項三号に基づく後任理事(三人以上四人以内)の選任が行われ、投票の結果、井上博二二五票、河上昇之助二四票、金子昇一七票等となり、過半数得票者たる井上博二、河上昇之助の両名が後任理事として選任された。
また同月三〇日、評議員三五名出席(委任状も含む。)により評議員会が開催され、同評議員会において同じく寄附行為九条一項三号に基づく後任理事(前記欠員補充)の選任が行われ、採決の結果、藤村通、鎌形剛両名が三三名の賛成を得て後任理事に選任された。
2 また昭和五七年六月二四日、理事一八名出席(委任状も含む。)により理事会が開催され、同理事会において寄附行為一五条一項三号に基づく後任評議員(八人以上九人以内)の選任が行われ、採決の結果、藤村通外八名が後任評議員に選任された。
3 以上の理事、評議員の選出は人選についての議論をすることなく、推薦に基づく候補者につき単純に採決をとってなされたものであり、また債権者と志や行動を共にした金子昇元理事長ら六名全員が後任理事、評議員にいずれも再選されなかった。
五 債務者の再反論に対する債権者の認否
債務者主張のとおり、後任理事、評議員の選任決議がなされたことは認めるが、債権者や池田末利の議決権行使の有無が右決議の結果に影響を及ぼすような事情が全く存しなかったという点は争う。
第三疎明《省略》
理由
一 申請の理由1の債務者学園が学校教育法、私立学校法に基づく学校法人であり、大東文化大学その他の学校を設置、経営していること、同2の債務者学園の寄附行為によれば、評議員及び理事の構成の一部として、債務者学園ないしその前身である法人の設置した学校を卒業した者で年齢二五年以上のもののうちから理事会において選任された者八人以上九人以内が評議員となること(一五条一項三号)、右評議員のうちから評議員会において選任された者三人以上四人以内が理事となること(九条一項三号)がそれぞれ定められているところ、債権者が昭和五二年五月三〇日債務者学園の理事会において前記条項所定の評議員に選任され、さらに評議員会において、同じく前記条項所定の理事に選任され、その後昭和五四年六月三〇日評議員及び理事に各再任されたことは、いずれも当事者間に争いがない。
次に、債務者の主張2の債権者が昭和五七年六月二九日の経過により評議員及び理事としての任期が満了したこともまた、当事者間に争いがない。
そうして、右事実によれば、債権者は、債務者学園の評議員及び理事の地位を喪失したというべきである。
二 ところで債権者は、後任理事、評議員の選任が有効になされるまで、寄附行為一二条三項の規定により右各職務を行う地位にある旨主張し、また後任理事、評議員の選任決議については、手続違背があった旨主張するので検討するに、昭和五七年六月二四日、同月三〇日の評議員会で後任の理事につき、また同月二四日の理事会で後任の評議員につき、それぞれ債務者学園主張のような選任決議がなされたことは当事者間に争いがなく、さらに《証拠省略》によれば、右選任の経緯が債務者主張の四1、2のとおりであったこと、したがって債務者園は前記理事解任決議を有効と考えて、債権者一名に対してだけ招集通知をしなかったことになること、しかしながら本件改選決議においては債権者と志や行動を共にした金子昇らが審議に加わって決議がなされたこと、しかも後任理事の選任について、寄附行為に基づく過半数を上廻る安定した多数決により、後任評議員の選任についても、債権者と同調して来た高木栄蔵が別案を一旦審議に上程しながら鈴木理事長の発言を受け入れて右別案を取り下げ、結局推薦された九名が多数決でそのまま選任されたことが一応認められ、以上の事実に、弁論の全趣旨を総合すると、そもそも債権者一名のみへの招集通知の欠缺が瑕疵の点で必ずしも重大であるとはいえないうえ、仮に債権者が本件改選決議の行われた評議員会及び理事会に出席し、討議に参加したとしても、右の経緯からみて決議の結果に影響を及ぼしたとは解しえないし、池田末利が右評議員会及び理事会において議決権を行使した点についても、同人の学長選任が仮に債権者主張のように不適法であったとしても、同人一名のみが議事に参加し議決権を行使した手続上の瑕疵は必ずしも重大とはいえず、かつ、前記の経緯に徴すれば、池田が出席しなければ別異の決議がされたであろうと推認されるような事情も認め難い。したがって、前記の諸点が仮に瑕疵に当たるとしても、改選決議の効力に影響を及ぼすものとはいえないから、右決議が無効であるとはいえず、債権者は、債務者学園の評議員及び理事としての職務を行う地位にはないというほかない。
三 よって債権者の申請はいずれも理由がないからこれを却下することとし、申請費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤田耕三 裁判官 生田治郎 竹中邦夫)